米国におけるPBM(Pharmacy Benefit Manager)とは、医薬品のコストをおさえたい保険会社や雇用者側から契約をとり、代わりに製薬メーカーと価格交渉し、規模の強みを活かして値引きを引き出し、調剤保険適用の管理を行い、薬局とネットワーク契約する、しいて言えば医薬品を安く仕入れ広くさばく中間業者・仲介ビジネス。上記資料はエクスプレス・スクリプツのIR資料にあるPBM及び同社が焦点をあてている概略だ。
医薬品メーカーとの価格交渉において重要なのが、推奨医薬品リスト(Formulary)の作成であり、このフォーミュラリーに載ることで保険の適用がされる=薬の売れ行きに大きな差が出るということなので製薬メーカーはPBMの取り扱う処方箋ボリュームが多ければ多いほど大幅な価格値引き交渉に応じざるを得なくなる。
PBMはついに3社の寡占状態まで買収が続いた
Source: PhRMA
3社だけで70%のシェアを寡占している。
PBM業界ではいかに処方箋の取り扱いボリュームを増やすかということが重要で、スケールメリットを目的として大規模な買収が続いてきた。
最終的には、エクスプレス・スクリプツ、CVSヘルス(のPBM事業であるCVSケアマーク)、ユナイテッド・ヘルス(のPBM事業)の3社だけでPBMのほとんどのシェアを占めるほどの寡占状態となった。
PBM1社あたりの処方箋ボリューム規模が大きくなったことと、近年増加傾向の高額医薬品に対する保険会社からの圧力もあり、フォーミュラリー掲載への駆け引きが劇的な水準に押し上げられている。
例としてPBM最大手であるエクスプレス・スクリプツによって、Gilead Sciencesのソバルディが高額であることの対抗馬としてAbbVieのヴィキラ・パックを価格交渉の極限まで追い込み、最終的に値引きに応じなかったソバルディをフォーミュラリーからはずし、代わりにヴィキラ・パックの大幅な値引きを引き出して載せるなどの展開も見られた。
PBMは薬価を安くすることで利益を得る社会的意義のある構造
ほとんどの場合、中間業者というものを排除することがコストダウンにつながり安価に顧客に提供できるものだが、仲介であるPBMがブランド医薬品からジェネリック医薬品(後発薬)への移行を促したことで米国のジェネリック医薬品のシェアが高まった。
これは顧客の医療費を圧縮すると同時にブランド薬から1処方箋当たりの利益率が高いジェネリック薬品へ移行することでPBMの利益も増やすことにつながるからであり、日本と米国のジェネリックシェアの差はPBMによるものと解釈されている。
薬局チェーンから糾弾される不透明な薬剤価格設定
PBMは患者に処方された薬が保険会社の償還リストにあるものか、またジェネリック等の代替薬について、患者の自己負担額を薬局に通知するネットワーク部分を担っている。
その上で、薬局に対し、調剤処方代の値引き交渉(薬局の粗利率引き下げ)も行うのだが、PBMはその価格設定に対して透明性が足りないと批判されており、薬局業界から仲介者としてのPBMの薬価設定情報の開示を求めて法改正の要求をされるほどです。
大手薬局チェーンは小規模チェーンに比べPBMに対し価格交渉で強気に出れるものの、ウォルグリーンズとエクスプレス・スクリプツの価格の妥協点が決着がつかず契約が白紙になり、薬局側は処方箋取り扱いシェアを失い、PBM側も同様にと、折り合いがつかないと両方に損害がでるため持ちつ持たれつの絶妙な距離をつめなければならないのです。
また、PBMが扱うメールオーダー(処方薬の宅配)は薬局などの店舗での販売よりも利益率が高く、薬局チェーン側もメールオーダーに対抗する仕組みづくり(PBMと同様に90日間分を安価で販売しポイントサービスとあわせた囲い込み)をすすめている。
PBMの存在意義が問われる
中間業者としては、PBMと契約するから調剤保険コストを下げられると期待されていることがビジネス存続の絶対条件だ。
その点の脅威は、圧倒的スケールによるバイイングパワーによって安価に薬を仕入れることができるウォルマートやウォルグリーンズの一部試みのように、企業と直接契約することにより調剤プログラムを”中間マージン”を減らしてコストを下げるという動きである。ただしその試みの足取りは鈍い。
とはいえこのような代替モデルの存在はPBMが中間マージンでボロ儲けしていると思われるような利益の取り方をした場合には持続可能性が無いということを示している。また、直販の動きが加速しないように、薬価設定の透明性が求められている。
ジェネリック医薬品が最も普及している国はアメリカで、PBMという中間業者が導入を促進していると言われる。
日本は国が薬価管理しているわりにはジェネリックの存在感が乏しい。
h/t @PhRMA pic.twitter.com/6AVtjlLFHe
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) July 25, 2017
米国の薬価を交渉しているPBMは保険会社等の顧客にとっての節約/どの程度を自分の懐に入れているか開示していない。薬剤費を削減するより薬価が高いことにインセンティブが働くので実際の総コストが低いかどうか疑問があると指摘されている。https://t.co/3pSs1sjLSz pic.twitter.com/0pJ9LC61gX
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年8月8日
アメリカのPBM大手4社
エクスプレス・スクリプツ(ESRX)
―Express Scripts Holding Company
―米国シェア1位のPBM
CVSヘルス(CVS)
―CVS Health
―ESRXに次ぐPBMシェアであり、全米2強の薬局チェーンという垂直統合されたタイプの競合。
ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)
―UnitedHealth Group Inc
―米医療保険最大手かつ三大PBM(PBMのカタマラン・コープを買収)
プライム・セラピューティクス
―Prime Therapeutics
―米国のPBM
みんなの投資分析とコメント
メディケア(公的高齢者保険)に価格交渉権をもたせるヒラリー・クリントンルールが採用される場合、PBMにはどのような影響があるのか?という点ですが、その場合、保険会社やバイオ製薬企業のほうが厳しい状況になりそうではありますかね。
ヒラリーの発言からの株価の反応がそれを物語っています。
PBMは差分で儲ければいいだけですからそんなに影響ないのかな?