要旨: 中国政府が推進する「保税区」を活用した越境ECの拡大が今後も続きそうで、アリババやJDなどEC2強以外の新規参入企業の勢いもすごい。
中国人の爆買いがさかんに報道されていたことを覚えている人は多いだろう。
爆買いブームは終わったかのように見えたが、爆買いの方法が越境ECに移行しただけで、爆買い自体は終わっていない。
中国の税収を直撃する海外旅行先での爆買い(代購)などを中国当局が抑制するための税制の変更と、海外小売店と越境ECにおける販売価格が縮小均衡してきており、旅行しなくても越境ECで日本製品など海外の商品が手に入るようになってきたことも大きい。
Cross Border E-Commerce: 国境を越えた電子商取引
つまり、海外商品お取り寄せネットショッピング。
以前から爆買いの中心と言われた、海外の中国人・留学生などの個人や小規模事業者などが顧客の代わりに海外で代理購入し中国に国際便で発送する代購(タイコウ)や、ネットを通じた海外商品の個人輸入スタイルの海淘(ハイタオ)などで海外の商品購買は伸びていた。
本記事で特集する越境ECは2013年に中国政府の越境EC政策で導入された関税手続きなどの中間プロセスが簡略化された保税区モデル(越境EC試験区)だ。
保税区モデル(越境EC試験区)がこれからの越境ECの中心となる
中国越境ECの成長とマーケットシェア
EC2強のアリババでもJDでもEC3番手のVIPでもなく、ネットイースがトップシェア。(今記事書いてる)
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拡大し続けている越境ECの市場規模。
世界的なECの拡大やSNSによる消費者間の結びつきの加速化に伴いさらに伸びてきた従来の国際スピード郵便(EMS)などによる直送方式(注文が入った商品を中国の消費者に個別に直接配送するモデル)は、本来輸入できない商品も中国国内に入ってくる可能性もあり、また税収の捕捉が難しいことから、中国政府は対抗馬となるスキームとして保税区(越境EC総合試験区)を2013年から導入。
中国の越境ECを「保税区モデル」と「直送モデル」に分けて大和総研が解説
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この保税区モデルは輸出申請・検査など関税手続を簡略化するもので、さらに導入時には普及促進のために低税率と免税制度をボーナスとして付与したため、ビジネスチャンスとみたアリババを筆頭に多くのEC事業者が保税区スキームを活用した越境EC事業を拡大した。
課税を免れる直送方式の対抗馬として、税の捕捉、政府による管理を容易にするためのプラットフォーム・制度として保税区(越境EC総合試験区)を導入した。
そういった構造的状況から越境ECの本流が保税区モデルになることは確定的と筆者は考えている。
保税区(越境EC総合試験区)は2013年8月に杭州、上海、重慶、寧波、鄭州の各拠点で施行され、中国全土の都市に拡大している。
中でも中国EC大手のアリババの本社がある杭州市は、中央政府から初の越境EC総合試験区として認定され、大手ECではJDよりもアリババが越境ECをいち早く拡大した。
それぞれの越境EC試験区では特色があり、杭州市では通関システムの効率的一体化のために通関・税務・検査検疫・商務・物流・金融などをワンストップでオンライン一括管理できるようにしている。これは中央政府の方針である注文・支払い・物流のオンライン一括管理による税関の合理化プラン「三単合一」に準じている。この合理化によって政府の税制がコロコロ変わっても通関業務に混乱が起きないようにもなっている。
保税区では通関手続きを行わずに中国国内の保税倉庫に輸入した在庫を保管することが認められているため、直送モデルに比べ配送スピードを短縮することができ、輸送単価を抑えることができる。
優位性があるのは配送スピードだけではなく保税区内に輸入品を保管すれば、ECで購入した消費者から求められた交換や返品へのスムーズな対応が可能となる点も重要な要素だ。
何より導入時は個人輸入扱い(行郵税)で税制優遇されコスト競争力があり、越境EC事業者の参入を加速させた。
海外での爆買いを中国国内に取り戻す越境EC政策
前述した海外の商品を代理購入する代購(従来的な越境ECのスタイルの1つ)は爆買いの中心で、限りなくグレーに近い税金のすり抜けによって、中国国内で正規の業者が販売する商品価格よりも大幅に割安で買うことができていた。
その上、2015年は特に日本は円安だったので代購や買い物目的の旅行客に牽引される爆買いが目立っていた。
しかし、代購の規模があまりにも拡大してしまったため中国政府の税収入への直撃が懸念され、中国政府は2016年4月8日から越境ECに関する税制改革を行った。これが越境EC業者を当初は混乱させた。
規制内容を見るとざっくりいえば購入額制限の変更や一部増税などで、主に代講などの規制強化が目的で、中国政府は越境ECをつぶしたいわけではなく、保税区モデルの越境ECの普及のための突出したボーナスを一般貿易との税率差の調整でバランスのあるレベルに調整し管理体制を強化していくというもの。
振り返ると2015年6月には越境ECの拡大による一般貿易との税率差是正のため中国政府はスキンケア用品や紙おむつなど一部の日用消費財に対する輸入関税を引き下げるなど税制も試行錯誤中で、保税区モデルの越境ECの推進は中心だが、普及度合いに応じてアンバランスの是正は今後も起こりうる。
新税制においても一般貿易と比較した越境ECの税制メリットはあり、中国政府の「国際貿易における通関の効率的プラットフォーム構築のためのインセインティブによる改革」というテーマで申請の手間も簡略化・効率的になっており、税収面などで直送方式の対抗馬としての保税区モデルの越境ECが一過性のブームとして終わるとは思えない(そもそも各特区の巨大な保税倉庫は建設したばかりだ)。
そもそも越境ECを規制すれば海外旅行先での大量購入や代購などの海外爆買いが復活し、税収を取りこぼすことにもつながるため中国政府が越境ECを支持する方針は明らかだというのが越境EC事業者(アリババやネットイース)の見方だ。
直送モデルつぶしのため、アンバランスはある程度修正しながらも保税区モデルの越境ECを普及させていく意向で、その後デファクトスタンダードとなったところで管理強化・公平な増税を図っていくということだろう。2018年末まで延期されたが税関に対する輸入許可書(通関単)が保税区でも求められる等。
もちろん保税区モデルは中国で売れ筋の商品以外は在庫リスクの観点からロングテール戦略との相性が良いとはいえないので結局は他の方式と組み合わせしていく必要はあるが。
この越境EC推進策と新税制は効果が出ており、海外現地小売店と越境ECサイトでの販売価格が縮小均衡してきているため、買い物のために海外旅行して商品を購入しなくても良い状況に一部なりつつあることで、中国政府が税収を取り戻し管理能力を高めるという政策は機能していきそうだ。
中国の越境ECでトップシェアはEC2強のアリババやJDではなくネットイースだった
ここからは具体的な越境EC事業者の紹介をしていく。
越境ECでネットイースのkaola(コアラのマーク)が首位。
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中国ECはEC2強のアリババとJDで市場を複占しているが、越境ECに限っては非常に断片化したシェアとなっている。
中国越境ECでマーケットシェア1位はネットイースが運営するkaola.com/網易考拉海購(ネットイース・コアラ)
中国トップシェアの越境EC
网易考拉海购(網易考拉海購) kaolahttps://t.co/fwmBX1LJPc pic.twitter.com/ADRQHQJT3j
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前述した新税制において化粧品は減税といってよい内容だったこともあってか売れ筋をみると化粧品の多さが目立つ。韓国コスメのジェイジュン(JAYJUN)が人気という評判をリアルで確認できる。
中国の越境ECで人気のカテゴリNo.1はコスメ
前調べた時は韓国コスメ(K-beauty)が人気だった。(それもあってユニリーバとかが韓国の化粧品会社を買収したりしていた)
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kaola.comはネットイースが自社で買い付けた海外商品の直販方式によって直営店による「本物」の品質を保証している点で偽物で悩まされてきた中国の消費者にとって安心して海外商品を買うことができる。もちろん保税区を活用し売れ筋商品の早い配送を実現している。ちなみに日本製品の開拓において三井物産と戦略的提携をしている。
マーケットシェア2位はアリババの天猫国际(天猫国際)Tmall Global
アリババが2013年にいちはやく展開した越境ECで、海外企業向けのTmall(中国BtoCオンラインショッピングモール)の越境ECカテゴリ。
アリババの中国越境EC
天猫国际(天猫国際)Tmall Globalhttps://t.co/YvHmv41mWt pic.twitter.com/wKKFeI6qtF
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トップピックのカテゴリは上から美容(フェイシャルマスク)、食品(粉ミルク)、ベビー用品(紙おむつ)、シューズ・バッグ(アメリカのブランドバッグが人気のようだ)
アリババはあくまでマーケットプレイス・プラットフォームなので、アリババもブロックチェーンなどで対策しているものの、kaolaのような100%本物志向の直接買い付ける方式が一部の消費者の心をつかみシェアを抜かれてしまったのかもしれない。
3位は先日テンセントとJDが出資した唯品会(Vipshop)の越境ECである唯品国际
先日テンセントとJDが出資した唯品会(Vipshop)の越境EC
唯品国际https://t.co/MgNbk1XmEs pic.twitter.com/bHyTrlyRU7
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VipshopはフラッシュセールのECだがロイヤルティの高いユーザー基盤を持っており、もともと化粧品・アパレルなど越境ECと親和性の高い(税制でも有利な)カテゴリを強みとしていたことも追い風となったか。
4位はJD.comの越境ECである京东全球购(京東全球購)JD Worldwide
JDドットコムの越境EC
京东全球购(京東全球購)JD Worldwidehttps://t.co/umFJ55IDbA pic.twitter.com/C7X5ygLloA
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JDの特徴は中国全土に張り巡らせた圧倒的な物流網。
日本のBUYMA(バイマ)のような代講・直送方式の越境ECである洋码头(Ymatou)
中国越境ECその3
洋码头(Ymatou)https://t.co/Qz2JoFeE5pパーソナルショッパーによる代講で出品されていることが分かりやすいようにトップページの中央部はカットし加工した。 pic.twitter.com/xSl6TgNqIl
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BUYMAのようなパーソナルショッパーによる代理購入ビジネスモデル。
スマホアプリ特化のSNSベースの中国越境ECである小红书(RED)
スマホアプリのSNSベースの中国越境EC。
小红书(RED)https://t.co/pD5HcjmoQi pic.twitter.com/GR0NtP5FNw
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ベースのユーザー同士の海外商品情報交換SNSアプリから越境ECに参入したCtoC戦略をとっているスマホ特化型の小红书(RED)。REDこそライブコマース・モデルと相性が良さそうなものだが。
中国の越境ECでも結局アリババの天猫国際(Tmall Global)とJDの京東全球購(JD Worldwide)が強いのか。あれ、NetEaseのKaola弱まったな。
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越境ECの成長と中国の消費者の消費のアップグレード
越境ECといえば、当初は紙おむつ、粉ミルクを中心とした需要があったが、中産階級の増加に伴い韓国の化粧品、美容機器から生鮮食品やワインなど消費のランクが上がっているのが特筆事項だろうか。
また、ただ安ければいいというわけではないことも、越境EC利用者のアンケートから伝わってくる。
総合評価もNeteaseの越境ECであるkaolaは高い。
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— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) December 25, 2017
今回記事を書くにあたってトップページのスクリーンショットを撮っていったが、ユニ・チャームのムーニーのPRが力入っているなという印象。中国人の爆買いといえば花王のメリーズが圧倒的人気だ。
中国EC2位のJD調査による「中国農村消費者の好きな海外ブランド」で花王と資生堂が目立つ。
中国13億人の人口の約半分が農村部に住んでおり、インフラが不十分で物流コストがかさむのでドローンによる配送を本格的に取り組むという。2017年末までにドローン配送ルートを100本用意。 pic.twitter.com/P6xmR6kjoK
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年7月26日
それにしても中国のECのシェアでいえばアリババとJDの2強とそれ以外では大差がついているが、越境ECではネットイースのkaolaが1位でVipshopも存在感があるなど興味深いシェア争いとなっている。
中国ECは2社寡占。
アリババのTモールに対して迫るJDドットコム。ちなみにアリババもAmazonの倉庫ロボットみたいのをたくさん稼働させており、一部のロボットはAmazonのよりも高性能だと主張している。
Source: https://t.co/CO5A5yVLlU pic.twitter.com/xrmMHYTbpv
— アメリカ部/米国株投資アンテナ (@america_kabu) 2017年9月7日