世界最大小売企業Walmart/Jet.comのマーク・ロアがAmazonと頭脳戦を始めた。

  • 世界最大小売企業であるウォルマートはAmazonとの競争で取り返しのつかない敗北をしたかに見えた
  • しかし方針転換したウォルマートは巨額のIT投資で反撃を始めた
  • 元CEOマイク・デュークが引き抜いた異才ジェレミー・キング、若き新CEOダグ・マクミロンが巨額のJet.com買収で獲得した天才マーク・ロアの2大巨頭体制でAmazonを追撃する
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世界最大小売企業であるウォルマートはAmazonとの競争で取り返しのつかない敗北をしたかに見えた

オンライン販売移行トレンドは終わる兆しがないどころか、まだまだ伸び余地があるように見える。


Source: Marketplace pluse

すでにウォルマートの時価総額はAmazonに抜かれている。(もちろんAWSなどのAmazonのリテール以外の柱が大きいというのもある)

Amazonの創業者でありCEOのジェフ・ベゾスは、自身が影響を受けた本として、またAmazon幹部や社員に広く読ませるものとして、ウォルマート創業者サム・ウォルトンの本「私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ」を推奨しているほどウォルマートから学んでいる(それどころか人材も引き抜いた)。

一方でウォルマートは創業者不在の中で登場したAmazonへの対応が後手になってしまい、創業者が語った「絶えず変化することの重要性」を忘れていた時期があったように見えた。

ウォルマートの反撃が始まる

Amazonの脅威が深刻となり、ようやくウォルマートも動き始めた。

2009年にCEOとなったマイク・デューク(Mike Duke)が、それまでの失敗だらけだったEC戦略を改め、ECの責任者をこれまでの内部人材ではなく外部から招くことで状況を打開しはじめた。

まず、デュークはKosmixというITベンチャーを買収した。これはこのサービスというよりもEC強化のために必要な優秀な起業家Anand Rajaramanの獲得が狙いだ。

Anand Rajaramanが主導しKosmixは@WalmartLabsに名称を変え、ウォルマートのIT戦略の拠点・広告塔として機能した。

Kowmixは、Kosmix起業前に比較ショッピングサイトをAmazonに売却した経歴を持つ連続起業家であるアナンド・ラヤラマン(Anand Rajaraman)やVenky Harinarayanの企業で、Anand Rajaramanは買収されたAmazonでもマーケットプレイスの根幹を開発した優秀な人物である。

ただ、このような連続起業家は優秀すぎてオールドタイプのウォルマートになかなかとどまってくれることはない。2012年6月に去ってしまう。

それでもデュークは急ピッチで”ウォルマートのIT体質”を作り上げることに心血を注いだ。

2011年夏に、元eBayの技術エグゼクティブのジェレミー・キング(Jeremy King)をウォルマートCTO及び@WalmartLabsのトップとして引き抜いた。

デュークはジェレミー・キング引き抜きと共にウォルマートを再編し、彼が率いる電子商取引部門をウォルマートの他の大規模部門と同等の立場に置いたのだ。(結局トップは重要なのだということがよくわかる)

ジェレミー・キングはeBayのインフラストラクチャの主要部分を構築した優秀なエンジニアで、ウォルマートのECのバックエンドシステムをゼロから開発し直した。

最低限必要な「ヘッド」が揃ったことで、怒涛のごとくテクノロジー人材の確保をウォルマートは行った。

2011年の買収
コズミックス(Kosmix)ソーシャルメディアの情報を検索・フィルタリングし表示
セットディレクション(Set Direction)モバイル・コマースのアプリ開発
ワンライオット(OneRiot)リアルタイムモバイル広告
グラブル(Grabble)電子レシート・POS技術
スモールソサエティ(Small Society)スタバやAmazonやホールフーズなどの大型クライアントで実績のあるiOSアプリケーションを開発

2012年の買収
ソーシャルカレンダー(Social Calendar)Facebook上のソーシャル・リマインダー・アプリ
テイスティラボ(Tasty Labs)Deliciousを設立したジョシュア・シャクター氏らが2010年に設立したソーシャル・ソフトウェア開発スタートアップ
ワンオプス(OneOps)クラウド・コンピューティング
インキル(Inkiru)リアルタイム分析・予測
トービット(Torbit)クラウドベースのWebサイトのパフォーマンスを向上させるサービス

2014年の買収
ヤムプリント(Yumprint)レシピサイト
アドケミー(Adchemy)ECサイトでの商品検索・カテゴリー分類技術
スタイラー(Stylr)気に入った服がおいてある近隣店舗の検索アプリ
ラボクラシー(Luvocracy)ピンタレストのようなソーシャルショッピングサービス。

このように2000人以上もの怒涛のIT人材とテクノロジーの確保でウォルマートが真にオンラインショッピングと店舗体験を融合させるために必要な土台が構築された。

この程度のIT投資では追いつけないほどAmazonを率いるベゾスは鬼才だった。


Source: Business Insider

かなりのIT投資で、ウォルマートのサービスも改善されていたが、オンライン売上高の伸びは減速していた。

ウォルマート以上にAmazonの戦略が優れていた、というシンプルな事実だった。

2012年にはデュークは「Amazonと戦うためにECにもっと投資すべきだった。もっと早くEC事業を拡大しておくべきだった」と後悔していた。

2013年のメキシコの贈収賄スキャンダルの影響もあってかデュークは辞任し、
そうして、ウォルマートは次の段階へ移行した。

2014年、Instagram共同創業者CEOのケヴィン・シストロム(Kevin Systrom)当時32歳を社外取締役に指名するなど、取締役メンバーの若返り、そして当時47歳のダグ・マクミロン(Doug McMillon)がCEOに就任した。

ダグ・マクミロンがCEOになってから役員会でAmazon創業者を取材した本「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」を配布したことは、Amazonのベゾスがウォルマート創業者の本から学んだように、Amazonからも学び、ウォルマートも「絶えず変化することの重要性」をといたサム・ウォルトンの精神を思い出そうということだったのかもしれない。

マクミロンは、エクスプレスと呼ばれていた小型店舗を大量に閉鎖し、小型店舗戦略を方針転換しIT投資に集中した。

IT投資の一方で、ウォルマートが定める同社の顧客サービスの基準を満たす店舗が15%しかなかった状況を変えるために、マクミロンは従業員の賃金を15%引き上げ、トレーニングを強化し、店舗も改装した。

その結果、現在は75%の店舗が顧客サービスの基準を満たすまで改善傾向にある。

ウォルマートは「シームレスショッピング」を目指し、リアル店舗を活かしながらネットやテクノロジーと融合させていくサービスに取り組んでいる。

Savings Catcher 2014年4月
ウォルマート価格より下回った競合店のセール価格に合わせて差額分をeギフトカードでもらえる。
ウォルマートで買い物したレシート番号をセービング・キャッチャー(Savings Catcher)やアプリに登録する導線にインセンティブをもたせたことで他のアプリサービスの展開がスムーズとなっている。

Scan & Go 2015年8月
スマートフォンにダウンロードしたアプリでお客が商品バーコードをスキャンしながら買い物を行うレジ要らずのシステム

Pickup Grocery 2015年10月
オンラインで注文した商品を、店の専用駐車場についたら車から降りずに商品を積んでくれる

Walmart Pay 2016年07月
ウォルマート専用の決済システム

そしてダグ・マクミロン体制におけるウォルマートの重要なターニングポイントはJet.comの買収である。

Jet.com買収で獲得した連続起業家マーク・ロアがウォルマートをベンチャーに変える

積極的なIT投資の中でも2016年8月にJet.comを33億ドルで買収したことはウォルマートの対Amazonの覚悟を感じるものがあった。

ウォルマートがJet.comを買収

Amazonに対抗するビジネスモデルのサイトJet.comを創業したMarc Lore(マーク・ロリーと発音するようだが日本だとマーク・ロアで通じる)は、Amazonがかつて買収したQuidsi.com/Diapers.comの創業者で小売業界では注目のキーパーソンだ。

ウォルマートはJet.com買収によって獲得した人材であるマーク・ロアをウォルマートの米国eコマース事業担当CEOに置いた。

マーク・ロア率いるEC部門は業界でも相当注目されていたビジネスモデルのオンライン・メンズアパレル・ブランドのボノボス(Bonobos)を買収しアンディ・ダン(Andy Dan)というこれまたキーパーソンを獲得し、Bonobos買収までに買収していた靴のShoeBuy.com、アウトドアのMoosejaw.com、レディスファッションModCloth.comを含めたブランド統括に指名した。

ジェレミー・キング、マーク・ロア、アンディ・ダンと面白い人材が揃って面白いことしようぜ!というシリコンバレー的な新しい風をウォルマートの官僚組織が邪魔しないことが分かれ目となるだろうが、それはウォルマートは理解しているようで、これまでのウォルマートでは許されなかった文化を持つ買収先企業の文化を許容し歩み寄る姿勢を見せている。

これまでのウォルマートとは異質のベンチャー感が際立ってきており、創業者サム・ウォルトンがいう「Think Small」の精神を再生できるかもしれない。

マーク・ロアが創業したDiapers.comをアマゾンが買収したのは、マーク・ロアが構築したAmazonよりも洗練されたロジスティクスノウハウを手に入れることも目的だったと言われているほどで、ジェレミー・キングが作り直したECの土台を活かして、それを発展させるマーク・ロアの仕組みの合理化力でウォルマートのシームレスショッピングの取り組みは前進するだろう。

マーク・ロア指揮以降のブランドの買収以外の取り組みとしては

Pickup Discount 2017年4月
客がWalmart.comで注文した商品を店舗に取りに行くと運送料分は割引する。
これは奥深くかなり重要な取り組みなので以下を参照していただきたい。

Amazon対策でウォルマートだからできる戦略
日本でもクロネコヤマトの運送スタッフの重労働・不足問題がありますが、アメリカも配送コストはAmazonもウォルマートも頭が痛い問題だ。 そこで、その運送コスト対策の1つでもありAmazo...

Associate Deliveries 2017年6月
希望する(要審査)従業員が帰路についでに配送を行う省コスト化の実験(失敗してもいいからやれ by サム・ウォルトン)

合理的に物事を進めていくのが好みなのだなというのがよく分かる。

送料の引き下げやPickupディスカウント、次の手が見えにくい伏兵のビジネスモデルのBonobos買収で、Amazonを後手の対応をさせたことが印象深かった。

ピックアップディスカウントは実店舗の強みを活かした「顧客自身に配送代行させる代わりに安くする」取り組みであり、面白い発想だ。消費者にとっては日々の買い物で立ち寄るついでだから一石二鳥だ。

これは現状実店舗網の乏しいAmazonにはできない。AmazonのWhole Foods買収による加速化の判断にも多少は影響したかもしれない。

Jet.com買収とIT人材のレベルアップと合理化によって、ウォルマート.comのオンライン取扱商品数は1年で1000万から5000万で増加し、マーケットプレイスの出品数も大きく増加している。

WalmartマーケットプレイスはAmazon依存に恐怖する企業が求める収益源多様化のニーズを満たし始めている

walmart marketplace

現在、Walmart.comは米国で2番目に多く訪問された電子商取引サイトである(Source: comScore)

米国におけるオンライン売上高マーケットプレイスはAmazonの伸びが著しく、その伸びにも支えられAmazonは米国E-Commerceで43%の比率を占める。

2番手とはいえAmazonが他を圧倒的に引き離した1強であることは変わりない。そのAmazonの売上の半分はマーケットプレイスから発生している。

walmart.comでオンライン販売も手がけるウォルマートがマーケットプレイスをはじめたのは、わずか6社の販売業者のみで始まった2009年だったが、順調な伸びだったとは言いづらい。

マーク・ロア以前はウォルマートのマーケットプレイスは伸びがイマイチだった。それはマーケットプレイスで競合するAmazonやeBayが販売業者を審査する期間が1日なのに対しウォルマートは6週間もかかっていたことからマーケットプレイスに対する方向性が明確でなかったことが示唆される。

しかし、Jet.com買収から一気にマーケットプレイスにも本格的に取り組みはじめたWalmartが急速に販売業者の選択肢として浮上しつつある。


Source: Marketplace pluse

Amazonに依存しすぎず販売先を多様化したい企業にとってウォルマートが有力な選択肢となってきているということだ。

とはいえ、まだAmazonとの差は圧倒的だ。

Amazonは多くのサプライヤーに対して、FBAというAmazonの倉庫に商品を一括出荷し、Amazonが発送するオプションを提供しており、これがAmazon Prime出荷(通常より早い配送)の対象となり消費者に対する訴求力が高い。

ウォルマートには現状これほどのフルフィルメント機能はない。

マーケットプレイスは簡単な戦いではない

bestbuy marketplace
世界最大の家電小売企業Best Buyは2016年2月24日に5年間運営していたベストバイのマーケットプレイスを閉鎖した。

マーケットプレイスは販売業者からするとスイッチングコスト(他社に出品先を変更するデメリット・障害)があまりなく、簡単にマーケットプレイスを切り替えることができる。(ただ、AmazonはFBAで仕組み的に業者の在庫をロックすることで他社に対して優位性がある。)

手数料、支払いスピード、配送オプションそれぞれで業者から比較されており、AmazonやWalmart以外にもeBay、ハンドメイド専門のEtsy(エッツィー)などがおり、プラットフォーム間の競争が激しくなればそれが手数料値下げ競争につながり利益率を圧迫するかもしれない。

ウォルマートは実店舗の価格面では、米国に進出しているドイツの格安スーパーALDIやLidlと値下げ競争で正面衝突できる体力はあるくらいなので、マーケットプレイスでも手数料面での薄いMarginに対する耐性はある程度あるだろう。

消費者が商品をオンラインで買おうとした時の一番最初に心に浮かぶサイトにウォルマートがなるためには、すでにAmazonに勝っている価格だけではなく、販売商品数増大につながるマーケットプレイスを伸ばすことも、対Amazonで取らなければならない戦略となっている。

見限られたウォルマートの行く末は?

AmazonとWalmartの戦いは非常にハイレベルな次元でぶつかっており、Walmartはオンラインを強化する一方でAmazonがWhole Foodsを買収し実店舗に本格的に進出し、両社の小売としての領域が重複しはじめている。

2005年以来ウォルマートに投資していたバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットは2017年に保有株のウォルマート株式を売却し、2017年の年次総会で
「人々はオンラインで買い物をしてしまう。」
「10年後も今と同じというような幻想は抱いていない。いくつか驚くべきことが起こるだろう。」
とコメントしている。

小売業は投資先として避けろとアナリスト達は言う。

ウォルマートはこのまま他の小売と共に沈んでしまうのだろうか?戦いを見届けよう。

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みんなの投資分析とコメント

  1. 匿名投資家 より:

    CEOのダグ・マクミロンは現場の叩き上げから成り上がったみたいに扱われているので
    従業員の士気をあげる狙いがあったと思われますが、実際は18歳のときに期間限定のバイトをしただけで
    その後は普通に大学院でMBAを取得した後にウォルマート本社に入社していますから
    いわゆる現場から徐々に出世していったというわけではないんですよね。

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