アマゾンチャージ・プライムリロードとAmazonキャッシュで分かるビジネスモデルの強みとAmazon決済革命前夜

アマゾンリロード

すでにAmazonはアメリカでAmazonのクレジットカード「Amazon Prime Rewards VISAカード」を利用すると5%のAmazonポイントがつく驚愕の還元をしている。

一方で、クレジットカードを持っていない、あるいは使わない人もいる。

そういった人たちに対し、Amazon Prime Reload(アマゾンプライムリロード)というデビットカード番号・銀行口座番号・運転免許証番号をAmazonにPrime会員が提供すれば、Amazon口座に入金する額に対し2%のAmazonポイントを付与してくれるサービスを始めた。


via Amazon Reload

クレジットカード決済は小売店の手数料負担が大きいので、Amazonとしてはデビットカードを使ってもらえる方が望ましい上に、購入する前に先に現金を確保できるというAmazon Primeのビジネスモデル上最大の経営メリットを強化することにつながる。

Amazonが購入よりも先にお金をおさえる仕組みを強化

そのプライムリロード等で使うAmazonポイント口座残高のようなものはAmazon Balance(アマゾンバランス)と呼ばれる。

もともとこのAmazon口座に対し入金する方法はギフトカードによる残高追加の仕組みをベースとしており、その仕組みの上に、日本でもアマゾンチャージという、プライム会員だと現金で残高追加すると最大2.5%のキャッシュバック(Amazonポイント)という仕組みもある。

アマゾンチャージ

アマゾンチャージはポイントの有効期限を10年と設定しているので有効期限1年のようなものに比べれば使い勝手がよく、Amazon残高で足りない分をオートチャージする機能すらある。

さらにコンビニから直接アマゾン口座残高に入金できるアマゾンキャッシュ(Amazon Cash)というサービスも2017年4月にアメリカで始まった。

Amazonが提携するCVSなどの小売店でAmazonが発行したバーコードをレジで処理することで現金でAmazonアカウントの残高にチャージできる。

これはクレジットカードを使えない貧困層やデビットカードを使わない人、そもそも銀行口座がない人でもAmazonが利用できるようにしたということだ。

アメリカの18歳以上の消費者の40%が銀行口座をもっていない(Unbanked)層のため(連邦預金保険公社FDIC調べ)アマゾンキャッシュは有効な手段だと思われる。

その他、米国のフードスタンプ層にPrime会員費を安くするプログラムをはじめるなど、アメリカ全国民をPrime会員にするのが目標かのようだ。

Amazonのビジネスモデル上、できるだけ未来の分までお金を先に払ってもらう仕組みは強い

Amazonが純利益よりもFCF(フリーキャッシュフロー)を重視しているのは純粋にそれが長期的ビジョンに基づいた運転資金上効率の良い経営スタイルを表しているからそっちを見てくれということであるのだが、Amazon Primeはもちろん、アマゾンプライムリロードもアマゾンチャージもアマゾンキャッシュも全てFCF重視経営の文脈にある。

“Our financial focus is on long-term, sustainable growth in free cash flows per share.” – Amazon

純利益だけで見ると、支出と収入の計上されるタイミングがずれて(実際にキャッシュが手元にはいるのが遅れたり)黒字倒産する企業もあったりするが、フリーキャッシュフローだと現金が実際に移動した時にはじめて計上されるので、純利益がマイナスであってもフリーキャッシュフローがプラスということがある。

Amazonはシンプルにいえば顧客・消費者に先に支払わせる量・時間を拡大させることで、サプライヤー(仕入先)に対して支払いするまでの差分のキャッシュフローを拡大し、借り入れに頼らず自己資金でやりくりして先行して投資にあて、さらなるキャッシュフローを生み出す連鎖を構築していることが強みだ。

もちろんその投資が価値を生み出す前提だが(だからクラウドに大きく舵をきったあたりはFCFがカツカツだったがその先行投資が今莫大なキャッシュフローを生み出した)、Amazonの場合はすでに規模を拡大すれば顧客がついてくる流れをAmazon.comでもAWSでも構築しているので今のところは、このキャッシュ・コンバージョン・サイクルが機能している。

Amazonの創業時からこのビジネスモデルの輪郭はあった。

当時の米国には、書店は書籍が入荷した90日後に代金を出版社(取次代理店)に支払うという慣習があった。その一方で、ネット販売では客がクレジットカードで支払ってくれれば、入金は2日以内になされる。
つまり、アマゾンは顧客が支払ったお金を平均41日間、キャッシュフローとして手元に置くことができたわけだ。これは、フリーキャッシュフローを生み出すための優れた仕組みといえる。
http://biz-journal.jp/2016/04/post_14773_3.html

先にキャッシュを手元に稼ぐ仕組みでいえば、STARBUCKSのプリペイドカード「スターバックスカード」が並の銀行よりも”預金残高”が多いという事実(S&Pマーケット・インテリジェンス調べ)も参考になるだろう。

つまりスターバックスは先に多額のキャッシュを抑えており、それゆえできるだけ借り入れに頼らずに自分で儲けたお金の範囲で投資できる範囲を広げている。最近中国に尋常じゃない量の出店をしているのはそういったキャッシュ先取り構造を活かす狙いもあるだろう。

Amazonでプライムリロード・チャージされる”Amazon預金残高”も銀行を超える規模になるかもしれない。

Amazon創業者・CEOジェフ・ベゾスがAmazon Primeのビジネスモデルの参考としたコストコのビジネスモデルも先に年会費としてキャッシュを確保するキャッシュフローコンバージョンサイクルが強さの秘訣の1つだ。

Amazonが銀行並の預金残高を持ち、銀行預金に紐付けされたAmazonアカウントの強みから決済ビジネスを拡大するか

アマゾンはオンライン決済のAmazon Payと、実店舗で使えるAmazon Pay Placesとオンライン/オフライン両面で決済領域を拡大している。
https://www.americabu.com/amazon-pay-places

世界最大の小売企業ウォルマートVISAと手数料面でもめて一部の国(カナダ)のウォルマートでVISAカードを使えなくした(駆け引き)時期があったように、長年小売企業はクレジットカード会社と手数料面で面従腹背状態だ。

また、Apple Payのような仕組みに対し、小売店連合が共同で開発したモバイル決済CurrentC(カレンシー)のようなものもあったが(結局失敗)、これも決済ビジネスによる中抜きから小売業側が抵抗しようという戦いの一部である。

中国ではAmazonの競合アリババやテンセントがQRコード決済を拡大し、クレジットカードいらずの決済システムを普及させている(QRコードを上書きされる詐欺なども横行しているので過渡期だろうが)。

このように決済ビジネスが激動する中、そもそも決済自体をゼロベースで考え直して、その強大な集客力を武器に決済そのもので革命を起こしかねないのがAmazonの恐ろしさだろうか。

筆者はAmazonを主要投資先の1つとしており、最も尊敬する経営者がジェフ・ベゾスであるという公平さを欠くポジションにあること、また、Amazonの株価は史上最高値でありAmazonの株価は頻繁に大幅下落することがあるリスクがあり、投資を推奨するものではなくあくまでAmazonの経営の状況確認と先読み妄想を楽しむ記事であることをご留意ください。

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