グーグルの自動運転車とAndroid Autoそして車載OSへの野望

グーグルの自動運転車(セルフドライビングカー)

2016/12/13追記: 完全自動運転車計画は断念とのこと。 ライダーのコストダウン問題(そしてTeslaが別方式で安価に自動運転を実現できている点)、 自動車メーカーではないことを起因とした規制による実験がスムーズにいかない点、 キーパーソンが離脱し、Google本体(Alphabet)の財務規律のため採算に合わない部門の軌道修正圧力といったところです。その代わり自動運転車開発部門を新会社名「ウェイモー(Waymo)」として分社化し他の自動車メーカーと協業していく方針です。自動運転車を売ることではなく、自動運転車を使ったタクシー的なサービス提供に舵をきる可能性がある。

まずはグーグルが自動運転車で実現したいこと、Googleの自動運転車がどのように周囲を認識しているか、Google(Alphabet傘下のGoogle X)の自動運転車プログラムを率いるクリス・アームソン氏(2016年8月に退職)のTEDでのプレゼンテーションをご覧ください。

Chris Urmson: How a driverless car sees the road

実際のところGoogleとしてはADAS(先進運転補助システム)なんかよりも自動運転車にしてしまった方が事故を大幅に削減できるというビジョンを持っていることが自動運転を指揮している責任者のクリス氏の話から理解できる。

そこで、グーグルの次世代の車社会への取り組みである、自動運転車と車載Androidプラットホーム「Android Auto」、そして車載OS、さらに自動運転が実現された社会でのGoogleのエコシステム形成や配車・配達などの派生サービスの可能性について本稿でふれてみたい。

Android Autoと自動車OSで車のプラットホームを狙うGoogle

Android Auto(アンドロイドオート)とは、Androidスマートフォンで行っていたことを車載の画面に表示して操作を車用に最適化してくれる、車載用のAndroidプラットフォーム。

具体的にいえば、車のコンソールにUSBなどでAndroidスマートフォンを接続し、車載ディスプレイにAndroid機能を提供することで、タッチ入力以外にもコントローラーや音声操作で、対応するAndroidアプリを操作可能にする車載インフォテインメントシステムだ。

Android Auto review

Androidということで、Googleだけではなくサードパーティ製アプリも利用できるため、スマホにつづく新たなエコシステム(囲いこんだプラットホームに多数の企業を巻き込んで儲かる仕組み)を実現しようとしている。

たとえば、Google Play Musicなどで音楽を再生したり(定額音楽配信他社もAndroid Autoに対応をはじめている)、ハンドルをにぎったままの状態でも走行中の通話をしやすくしてくれたり、Gmailで音声入力でメール返信したり、Google Mapsを利用したカーナビ機能も拡張できる。

競合であるAppleも「CarPlay」という同様のダッシュボードディスプレイに対応アプリを提供する機能をはじめており、たいていの自動車メーカーはAndroid AutoとCarPlayともに両方対応を表明している(一部の国は規制で遅れている)。

スマートフォンがiPhoneとAndroidの2強だったように、両OSは大量のアプリを抱えており、車載アプリの増えたAndroid AutoやApple CarPlayの自動車への搭載が当たり前になった場合、Android AutoやCarPlayが使えない車は買ってもらえない状態になると、車メーカーは主導権をGoogleとAppleににぎられる可能性がある。

その状態になると、それまでは「スマホを接続する」というステップが必要だった状態から車載OS自体をGoogleとAppleが担うステップまで進展しかねない

OSをにぎられた携帯端末メーカー各社がどうなったかを振り返れば、自動車メーカーがOSをにぎるGoogleとAppleの下請け化というリスクも想定しなければならないだろう。

実際Googleはデバイスタイプ(Android Wearなど)にAndroid Automotiveを追加しており、車用のAndroid OSを検討している可能性がある。

消費者からしてみれば、Android Autoが当たり前の時代がくれば、いちいち車にスマホを接続せずに済む車載OSが嬉しいはずだ。

自動車の車内ディスプレイ・操作対応のAndroidアプリが増えてくれば、その後の“ドライバーレス(無人)”の完全自動運転車時代の車内エンターテイメントやナビゲーションなどで有利な立場に立つことができる。

自動運転の間、人間は手をハンドルに拘束されずに済むようになる、その間にスマホや車載Androidにユーザーを導けばグーグルはそこで(広告や定額配信サービスで)収益を生み出すことができる。

Googleは大局的には自動運転がデフォルトになる時代を見据えて動いている。

Googleが自動運転で実現したいこととその戦略

グーグル・ロボティクスの挑戦が目に見えて拡大したのは2013年頃からのこと。 軍事技術の最先端研究で著名だったBoston D...
自動運転車やロボットの脳(Google brain)部分をクラウドに置き、ロボットのカメラやセンサーなどを通じて得たデータをクラウド上の脳が判断し、アクションにつなげるということができる有力プレイヤーがグーグルだ。

個々のロボット(自動運転車)に搭載されたAIが単体で完結するのではなく、交通範囲内のセンサーだけでなくその情報すらもクラウドによって全てのロボット(自動運転車)がつながることでより適切な判断ができたり、全体が連携したシステム的な動作が可能になる。

自動運転車の車体などのハード部分は提携先やサードパーティである他社に開放し、クラウド脳の部分を支配することがグーグルにとって重要。

クラウド脳という観点からすれば、グーグルの自動運転車は運転に特化した高度認識ロボットなのかもしれない。

自動運転車とクラウドAIとは言うものの、まだ世の中は障害物検知からの自動緊急ブレーキ補助などのADAS(先進運転補助システム)の普及もまだまだな現状であり、だからGoogleとしては「Android Auto」のような車のコントロールディスプレイとスマートフォンをつなぐシステムもボトムアップで同時に展開している。

逆に、モービルアイのようにADASからの延長線上で自動運転を見据えている企業もある。

インテルに買収されたモービルアイ(Mobileye N.V.)は、独自の単眼カメラセンターから取り込んだ情報から自動車の事故・衝突の危険...

NVIDIAのように自動運転の精度を上げるためAIが機械学習する際に支えとなる製品を開発するプレイヤーもある。

Googleの自動運転の規格統一に抵抗するための欧州勢の高度地図買収の動き

当然ながら、車メーカーもGoogleの野望を抑止するために(実現されると車メーカーから主導権がGoogleに移転する)、アウディ、メルセデス、BMWがコンソーシアムを組んでノキアからHEREという高精度地図作成会社を買収した。

HEREの買収によって高精度地図のレイヤーのフォーマットから自動運転の規格統一で世界標準策定のリードを欧州勢がとりたいのだ。

なにせGoogleは高精度地図の製作にストリートビュー・カーを世界に走らせてGoogle MapやGoogleストリートビューなどで利用できるマッピングを行っている世界最大規模の地図コンテンツ提供者なので、放っておけば世界的な基準作成にGoogleが主導権をにぎってしまうからだ。

それくらい高精度地図は自動運転にとってキーなのだ。

グーグルにとってデジタル地図は戦略上のキー

自動運転でのキーという役割だけではなく、Android Autoでの地図のキラーアプリをGoogleはグーグル・マップとWazeと2つも抱えている。

Waze(ウェイズ)は日本ではあまり普及していないが、世界的に人気なソーシャルマッピングサービスで、ユーザー同士で速度取締や渋滞や事故などのGPSベースの情報の共有がされている。

Get to Know Waze

スマートフォンにとって検索と同じくらい重要なサービスは実は地図サービスであり、車載アプリとしても非常に将来性のあるジャンルだろう。

それぞれの自動運転車のカメラやセンサーがとらえた路面凍結や渋滞などの情報を他の車とクラウドで情報共有する自動的なロケーション・クラウドだけでなく、Wazeのようなソーシャルな地図プラットホームは将来的にGoogleがUberのような配車サービスを手掛ける際に布石となる。

UberとGoogleの自動運転車による配車サービス競争

実際、Googleが買収したソーシャル地図サービス企業であるイスラエルのWazeは、イスラエルで「RideWith」というカーシェアリングサービスをはじめている。

もちろんWazeは買収されたあともイスラエルにとどまることを約束された独立性をもった企業で(イスラエルから移転するよう求めたFacebookがそれを理由に買収で競り負けた)、必ずしもグーグルの戦略上の行動とは言い切れない。

しかし、相乗り通勤をコーディネートするサービスであるRideWithの取り組みの延長線上には、Uberのようなクラウド配車サービスが見えているだろう。

世界的に普及をはじめている配車サービスの「Uber」とは、近くの登録ドライバーを斡旋するプラットホームアプリで、ユーザーはUberにクレジットカード登録しておけばタクシーと違いキャッシュレスでタクシーのように近くのUber登録ドライバーを呼び出して、行き先もUberアプリで予め入力しておけばドライバーに行き先を告げる必要もない。
 
Uberアプリにおいてドライバーはユーザーから評価を受け、ユーザーもドライバーから評価されるため未然にトラブルを回避しやすくなる。

Uberはタクシー業界にとっては破壊的ビジネスモデルのため規制が叫ばれているが、実態はテクノロジー企業であり、最終的到達点はドライバーすら不要の完全無人自動車の配車サービスだ。

実際Uberはカーネギーメロン大学と共同で自動運転カーの研究開発を目的とする先進技術研究所を設立している。

実はGoogleの投資事業部門Google Venturesは、2013年8月にUberに2億5800万ドルの出資(その後の投資ラウンドでも追加出資)を行い、Googleの役員をUberの取締役会に送りこんでいた。

しかしUberはGoogleの自動運転カーを採用せず、自社開発の道を歩んでおり、Google自体もUberと競合する配車サービスを検討していると報道されている。

配車サービスにおけるGoogleとUberの動きは興味深いところではあるが、検索収益に直接関わらない部門においては、グーグルのペイジCEOは規制が多い業界(主に医療を指す)ではその方面の調整ノウハウをもった大企業と組んでレベニューシェアする傾向を強めており、理想は出資先であるUberにGoogleの自動運転ノウハウやクラウドシステムを提供し提携することではないかと考える。

Googleは自動運転においては自動車メーカーと組むことを主眼においており、Google自体が自動車メーカーの道を目指しているわけではない(とグーグルは言っている)。自動運転車サービスとして技術を提供する道を目指している。

Ready for the Road

自動運転と配送サービス、しかし現在は宅配代行サービスでのシェア争いから。

グーグルは最終的にはピックアップロボットで商品を自動的にロボットで積んだ後に自動運転車で宅配するところまでを目標としているだろうが、現実的にはまだ遠い。

まずは宅配代行サービスでシェアを拡大するところからである。

Googleはすでにグーグル・エクスプレスというサービスで宅配代行事業に進出している。

グーグルの即日配達サービス「Google Express」は非生鮮食品を宅配するサービスで、生鮮含む食品配送サービスも少しずつ始めている。

もともとはAmazonがはじめた生鮮食品など食料品宅配サービス「Amazon Flesh」や注文商品を1時間で配送する「Prime Now」などAmazonが自社配送ネットワーク構築を始めたことに対抗してはじめたものだ。

Googleは「検索ビジネスにとって競合は実はAmazonだ。なぜならユーザーは買い物をしたいときにGoogleではなくAmazonで検索するからだ」と、Amazonを最も脅威のある競合の1つと認識しており(Facebookも同様で、そのためFBに地図を与えないためにWazeの争奪戦には本気だった)、多くの実店舗チェーンもAmazonに顧客を奪われていることから同じく脅威を感じており、利害が一致してGoogle Expressにはターゲットやホールフーズやコストコ、ウォルグリーンなどの大手チェーンからローカルショップまでが参画している。

グーグル・エクスプレスと競合サービスの違い

Amazonのアマゾン・フレッシュは外部の配送業者を使わず自社の配送センターとトラックを配備し独自のロジスティクスを構築している。

しかし、グーグルはあくまで外部の業者に委託し、注文を受けた店で業者が買い物をして客に届けるショッピング代行サービスのようなものだ。

これは近年急速に拡大しつつあるパーソナルショッパーのクラウド化ビジネスの新興企業インスタカート、シプツ、ポストメイトなどの買い物代行・宅配サービスと競合するサービスだろう。

Grocery Delivery App Instacart Battles Dot-Com Ghosts

これら新興買い物代行企業はそれぞれパーソナルショッパーを抱え、会員から会費を得ることで買い物と宅配を代行してくれるというものだ。

このような買い物代行サービスの利幅は薄く、黒字化はかなり難易度が高い。

アマゾンドットコム(Amazon.com, Inc.)は世界最大のオンラインストア、AWS(クラウドサービス)、KindleやFireな...
Amazon Fleshの場合はスーパーが単体で宅配サービスを行うのと違い、Amazonの商品数を背景に利益率の高い食品以外の膨大な商品のついで買いの誘発が期待できる。

というわけでAmazonは利幅のとれる商品を多く提供できることから、ついで買いで有利な立場にあり、競合他社はいかにコストを下げるかが課題となる。

そこでGoogleはドローン(無人機)による商品配送を2017年に開始する見通しとアナウンスしているように、人件費のかかる配送を無人化することでコストを下げ、損益分岐点を下げる予定だ。

もちろん将来的にはドローンだけでなく無人自動運転車を配送に使うビジョンがあるのかもしれないが、無人自動運転車といっても我々がイメージするようなサイズではない場合もある。

たとえばSkypeの共同創業者が立ち上げたStarship TechnologiesのStarship robotのような地上を入る配達専用小型ドローン

Starship Robot Delivers Packages Locally

のようなものをグーグルが配備すればいいわけだ。

ここでも本稿で度々取り上げる地図技術が差別化としてグーグルの強みとなっている。

Googleの配達ドローンが空から地上から走り回る時代になれば、配送サービスのついでに地上のあらゆる情報を集めることが可能になる。それをWazeやGoogle Mapなどを通してユーザーに提供することもできるし、クラウドAIを通して自動運転車の経路選定(事故などによる交通障害の自動回避)に役立てもよし。この情報こそがグーグルにとっての武器となる。

まとめ

高精度地図技術は自動運転車、ADAS、スマホ、配車・配達すべてにとってのキー。

Android Autoは車載アプリのエコシステムの水平展開

  1. 車載OSへの布石となるかも
  2. 車内で移動中にハンドルから開放されることでAndroidを通じてグーグルの収益化ができる

Googleの自動運転車には様々な可能性がある

  1. 自動車メーカーに技術提供し自動運転サービスを開発(車載OSやクラウド部分を支配)
  2. 無人なら必ずしも大きくなくとも良い。小型の地上走行ドローンで配達サービスを提供しながら地上の道路情報の収集
  3. Uberの無人自動車配車サービスの野望とGoogleの野望は同じはず。出資してるしYou達一緒にやっちゃいなよ。

参考カバー写真:Google Self Driving Car

みんなの投資分析とコメント

  1. 匿名投資家 より:

    トヨタ自動車はグーグルに主導権をにぎらせたくないので、AIや自動運転で独自の研究所を作り、グーグルからも人材を引き抜いていますね。

    さらにトヨタ・ビッグデータ・センターなんてのも作りますから、垣根がなくなってきています。

    またグーグルやAppleなどに車載ソフトウェアの主導権を渡したくない利害が一致した自動車メーカー間の提携の動きもあります。

    たとえばトヨタはフォード・モーターが開発した車載情報端末とスマホアプリを接続するソフト(スマートデバイスリンク)を共有するとか。

    自動運転車に関してもNVIDIAの「Drive PX 2」という自動運転車用の高性能プロセッサがディープラーニングの時短を達成しているので、自動運転車に関してはあまり参入障壁がないレッドオーシャンかもしれません。