Amazon Prime Nowが米国で流行の買い物代行サービスを日本にもたらす

この記事の要旨: Amazon Prime Nowの提携店がこのまま増えていくと日本における買い物代行サービスという点でもAmazonは1強となる可能性が高い。

Amazon Prime Nowは、スマートフォンアプリ「Prime Now」で税込み2500円以上の注文をすると1時間(890円)か2時間(無料)でAmazonのスタッフが商品を届けてくれるサービスだ。

そしてPrime NowはAmazonが在庫を持つ商品だけではなく、提携店の店舗在庫をピックアップしにいって届けるサービスも始めている。

Amazonはマーケットプレイスのように第三者にも自社のプラットフォームを提供している。

それと同様に、ネット販売・自社配送能力をもたない小売店に対しても、集客・決済・配送の代行というAmazonの自社配送サービスの提供で囲い込みを始めているという状況だ。

Prime Now:  提携店は仮想的な店舗をアプリ内に持つ
Amazon Fresh:  提携店は商品をFC(Amazonの物流の拠点)に直接供給

2つの軸で小売店を組み込んだエコシステムを形成しようとしている。

従来のスーパーなど小売店も競合であるAmazonと否が応でも組まざるを得なくなるのである。

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Prime Nowの提携店戦略は買い物代行サービスの空白地帯を埋める

現時点で、Prime Nowの提携店は

ドラッグストアのココカラファインとマツモトキヨシ
百貨店の三越日本橋本店

しかないが、米国で先行しているPrime Nowでは多数のローカルスーパーと提携しており日本でも同様な展開が予想される。

Amazonが倉庫で在庫を持つ商品を扱う通常のPrime Nowと違い、提携店舗での注文は、Prime Nowの配達員が各提携店に出向き注文商品をピックアップしてから届けるというステップを踏むため、現状は2時間便で配送料540円がかかる(一部店舗は5000円以上で送料無料など大口優遇はある)

このように、一度FCや倉庫にまとめてから配送するスタイルと違うため、配達員が複数の店舗にまたがる商品をまとめて配達することはコスト的に無理があり、それゆえ提携店の商品をPrime Nowで注文する場合は、まずアプリで店舗を選択してから商品を選ぶこととなっている。

つまり、提携店はPrime Nowのアプリ内に仮想的な店舗を持つということで、出前館や楽天のようなイメージだ。楽天が行っているように、Prime Now提携店舗に対してはAmazonはマーケティング支援も行う。

また提携店が増えてくればアプリ内上位表示をしてもらうためにプロモーション費用がAmazonとしては期待できるだろう。

Prime Nowの配送ネットワークはアマゾン独自のもので、Amazonはクロネコヤマトの配達員の負担ガーなどの理不尽な非難を受けることもない。Amazonの問題ではなくヤマト運輸経営陣の問題だからである(宅急便を作った名経営者である小倉昌男氏が今も経営していたらこんな事態にはなっていないだろう)。

なお、米国のPrime Nowでは現状倉庫内ピックアップ用ロボットを使っておらず、日本でも同様だろう。

直接的に関係しないが整理してみると、

Prime Now:受注、決済、収集、自社配達
提携店:集荷、梱包

楽天: 受注、決済
加盟店: 梱包、配送(運送会社委託)

出前館:受注、決済
加盟店:生産、配送(店舗スタッフまたはシェアリングデリバリー)

このような形だろうか。
さらに踏み込めば、出前館も2016年8月からシェアリングデリバリーという仕組みを始めている(吉野家などが利用)。
新聞販売店「ASA」などの配達機能を持つ企業と連携し、デリバリー能力をシェアしてもらう仕組みだ。

*世界的投資家ウォーレン・バフェットは若かりし頃、新聞配達の仕事を掛け持ちしていたという。現代版だと新聞配達し終わったら吉野家の牛丼の配達か。

話を脱線から戻そう。

Prime Nowの弱点とAmazonだからこその自社完結型の強さ

Prime Nowの弱点は品揃えだ。それでも人気商品はカバーされ十分多いのだが、Amazonでの通常注文に比べると1時間配送が顧客に届く距離に倉庫拠点を構築するためどうしても倉庫は小規模化し在庫は多く持てない。

そのため他社の店舗を倉庫代わりに使って補強しようというのが提携店を巻き込んでいくモール戦略だ。

提携店が増えれば増えるほど配達スタッフを増やしていかなければならないため、配送だけに特化した企業が始めるにはいくら米国のインスタカート(後述)のようなクラウドソーシングとはいえ、いつ労働問題が吹き出すか分からないし(オンデマンド労働者をパートタイム従業員化として義務付けられたり。過去ウェブバンという倒産事例もある。)、提携店を増やす=配達スタッフが増えるということは青天井にスケールできる事業ではない(配達員不足で正規雇用比率を増やしてカバーしなければならなくなるリスクもある)。また、提携店の契約解消=ビジネスの消失だ。

しかしAmazonの場合は、仮に提携店に離反されてもAmazon自体で配送の需要を自社完結しているので強気の提携交渉ができるのが違いだ。

クロネコヤマトがAmazonとの交渉をギリギリまで先送りしてしまったことから分かるように大口の離反の恐怖は交渉に不利なのである。

Amazonはそもそも自社で使っているクラウドを他社に提供したり(AWS)、自社媒体を他社に提供したり(マーケットプレイス)、まずは自社で使うに値するものを他社に提供し、他社から選ばれるサービスになるために競争力を磨いていく結果、自社もその洗練されていく自社サービスのメリットを享受できる循環構造を持っているのが強みだ。

これまでAmazonの最大のボトルネックであった配送コストに関しても、自社で配送能力を身に着け、さらにそれを他社に提供(Prime Now提携店)していくことで、自社配送を他社配送サービスよりも価値を上げるための競争原理が生まれ、それを自社が享受できる。このように自社が最大の価値享受者となるサービスを他社にも解放し洗練させていき、他社も自社も満足度をあげる正のスパイラルループに導けるのがこれまでのAmazonの勝ちパターンでPrime Nowの提携店戦略は取扱い商品数の強化もあり一石二鳥だ。

Prime NowとAmazon Freshは戦略を補完し合う

もう1つの軸であるAmazonの生鮮食品の即日配送サービス「Amazon Fresh」はPrime Nowとはまた違う戦略で、いったんAmazonのFC(ロボットなどが稼働しているあの巨大倉庫で温度管理のある設備)に商品を集めている。


提携店舗ごとでしか注文できないPrime Nowと違い、提携店舗をまたいで注文できる。その代わり配送は最短4時間だ。

ライバルのGoogle Expressですら生鮮食品はコスト負けするので撤退(ただし生鮮取扱いをやめた代わりにサービス提供範囲を優先)したぐらい儲からない事業のはずだがAmazonは日本でも生鮮即日配送サービスに参入してきた。

野菜、果物、肉、鮮魚は見て買いたいのが世の奥様方のニーズのはずで、それゆえアメリカのスーパーではスマホで注文してピックアップしてもらった商品袋を取りに行き、青果・肉は自分で見て選んで買って買えるという顧客が多いのだ。

それゆえ、スーパーがAmazon Freshで壊滅するわけではなく、ちゃんと生き残るための戦略(スマホで注文したピックアップ済の商品を取りに行くだけ等)をとっている企業(米国最大のスーパーのクローガーやウォルマート)は心配することはないだろう。むしろスーパーはスーパー間の出店・値下げ競争過多が目下問題だ。

ただ、Amazonもこのスーパーなど小売点のピックアップ戦略にのっかる形でAmazon Freshのピックアップ拠点をテストしている。


これは注文して15分でピックアップしにいけるという驚異的な拠点であり、せっかちな人には需要があるかもしれない。

Amazon FreshはAmazonの弱点であった生鮮部門に取り組むための突破口の1つであり、赤字であってもテストし続けたい

また、Amazon Freshという対スーパーのドライバーがあるからこそ、Prime Nowで提携スーパーから足元を見られずにAmazonがゲームマスターとして有利に駒を進めることができるわけだ。

しかし、そんなシンプルな話にならないのがアメリカで、アメリカには買い物代行サービス戦国時代がもう中盤に差し掛かっている状況でAmazon以外に配送で組める相手が複数存在する。

アメリカの買い物代行サービス

アメリカではスーパーマーケットの買い物代行サービスが急成長している。

これらはクラウドソーシングという不特定多数の人に業務を委託する雇用形態(Uberも同様)で、登録し審査済の買い物代行スタッフが注文者の代わりにスーパーで購入し最短1時間で商品を届ける買い物代行サービスだ。

これらはほとんどが赤字であり、次の景気後退・金融危機で生き残っているのか不明だが、それでもスタッフのピックアップ・配達の効率化やアプリ内広告、あるいはシプツのように1エリア1提携店というように排他的独占契約など工夫をしている。

たとえばインスタカートの場合、配達料金は5.99ドルで、この利用料金がかかならない年間定額サービスInstacart Expressは149ドル(99ドルから値上げされた)。
ホールフーズなどのスーパーがインスタカートと提携しており、インスタカートの利用者はアプリで簡単に店舗に出向かずともホールフーズの商品を自宅まで配達してもらえる。

これらが日本にはなく、アメリカで流行る理由の1つは、米国ではすでにネットスーパーは消滅しているに等しいからである。

ネットスーパーは赤字を垂れ流すだけなのだ。それゆえ代わりに配送してくれる買い物代行サービスはリスク・コストを外部化できるのでスーパーにとってはデメリットはさほどなく、利用しなければ利用する競合スーパーに顧客を吸い取られてしまうためやらざるを得ない。(やらないとしてもピックアップサービスなどは必須の時代になった)

この買い物代行サービスはPrime Nowの提携店拡大戦略と競合する。潤沢なキャッシュを持つAmazonとしてみれば、インスタカートが行った配達員の賃金引き下げと逆行する賃金引き上げによる引き抜きで、インスタカートなど買い物代行で先行するサービスの拡大に釘を指すことは簡単だ(配達スタッフの数でしかスケールできない事業だから)。つぶした後で賃金を引き下げれば(自粛)

今後、日本のネットスーパーはPrime Nowの脅威にさらされる

米国と違い、日本にはネットスーパーが生き残っている。赤字事業をダラダラと続けている狙いを掘り下げることはここでは省略する。

サミーネットスーパーは撤退しているが、最も利用されていると思われるイトーヨーカドーネットスーパーを筆頭に4社が生き残っている。

イトーヨーカドーネットスーパー 店舗から配送

イオンネットスーパー 店舗から配送

SEIYUドットコム 一部センター配送
西友はウォルマート傘下だけあって、米国で流行っているピックアップ戦略を一部店舗で取り入れている。
「うけとロッカー」という店舗のロッカーで事前にネット注文した商品を受け取りにいける(2000円以上の注文で手数料無料)がアメリカと違い店舗が小さいので相対的メリット(歩き回らなくて済む)はさほどないかもしれないが良い取り組みだろう。

楽天マートは翌日配送な時点で論外。

日本にはアメリカのようにまともな規模の買い物代行サービスがないので、AmazonのPrime Nowの提携店の増え方次第では買い物代行サービスとしても1強になるだろうと予想され、スーパーが赤字前提でネットスーパーを続ける意味が問われるだろう。

Amazonに配送を外部化してしまえばコスト低減になるのだから。

米国でAmazonと覇権を競うウォルマート傘下の西友は組まないだろうし、オムニ7というAmazon意識しすぎの媒体を作っているセブン&アイのイトーヨーカドも組むとも思えない、もっと規模の小さいローカルスーパーから囲い込んでくるか(オーケーストアなどは宅配戦略で迷走している)。

いずれにせよ、Amazonは顧客視点で戦略を立てており、Amazonの動きを見てから動くのは、潤沢なキャッシュのあるGoogleなら後追い乗っかり戦略(Google Express、Google Cloud、Google Home等)も間に合うが、それどころではない「Amazon対策」というAmazonの出方に戦々恐々で顧客の方を向いているのか不明な企業は常にAmazonに先手をうたれ続け、ゲームチェンジャーによってゲームのルールが決まってから対応してからでは遅いのである。

ヤマト運輸がAmazon対策で一部取引を打ち切り、値上げしたが、これは独自配送網を保有していないネット販売店は軒並み、自社配送網を効率的に構築しつつあるAmazonに対し相対的に不利になる状況が始まったということでもあるのだ。

そして自社配送網を持ったとしても、自社配送網を外部化しはじめたAmazonに対して配送面で勝ち目は無い。それはAWSやマーケットプレイスの軌跡を見れば想像がつくだろう。

日本でもクロネコヤマトの運送スタッフの重労働・不足問題がありますが、アメリカも配送コストはAmazonもウォルマートも頭が痛い問題だ...
アマゾンドットコム(Amazon.com, Inc.)は世界最大のオンラインストア、AWS(クラウドサービス)、KindleやFir...
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みんなの投資分析とコメント

  1. 匿名投資家 より:

    Amazon Prime Nowの”自社配送での”対抗策は、ウォルマートが最近テストしはじめたように
    従業員が帰宅時に顧客の注文をピックアップして帰路で配送する仕組みだけど、
    (日本の)スーパーの現場を知っている者としてはこれ以上の負担は無理。
    ただでさえ人手不足なのに。

    Prime Nowの口コミみていると、接客業の基本がなっている配達員が揃っているらしくて
    無愛想な運送会社の配達員(そりゃ彼らにとっては配送を依頼した企業が顧客だからなあ)と違い、
    Prime Nowの配達員は「Amazonの顔」として見られることを前提に教育されているのが利用者としても伝わってくる。

    どうせ駆逐されるならAmazonの戦略と相乗りする形で共存する道を選んでしまったほうがスーパーにとってはいいのではないかと思います。