世界における医療用ロボットおよび補助の手術機器の市場は2022年までに180億ドルに拡大すると予想されている。(Source: BoAML)
手術支援ロボットの利点は主に低侵襲(切る部分が最小限で済むなど身体の負担を軽減する)である点で、これにより術後の回復が早く済むことで入院日数を削減し、患者のQOLを向上し、病院の病床回転率を上げる。
市場の拡大とともに手術支援ロボットの競争も激化していく
手術支援ロボットの問題は、その導入コストが高額で、特に腹腔鏡手術支援ロボット市場におけるda Vinci(後述)は独占状態に懸念する声も多かった。
しかし徐々に対抗馬になりそうな腹腔鏡手術支援ロボットの開発が進んでおり、そういった企業やその他の手術支援ロボットのメーカーを紹介。
最も有名な手術支援ロボットはda Vinci(ダ・ヴィンチ)
低侵襲の手術を支援するロボットであるダ・ヴィンチ(da Vinci Surgical System)は2000年にFDA(米国食品医薬品局)に承認。
もともとは戦場における遠隔手術システムの開発を目的として米国陸軍と旧スタンフォード研究所で開発、その後民間で応用するためにIntuitive Surgicalに研究が引き継がれていたもので歴史が古く、製品価格が高額にも関わらず先行者利益を享受し世界的にも知られる。
画像を見ての通りアームつきの本体を遠隔で操作・制御するシステムで、多関節アームによって人間にはできない動きをサポートし、長時間の手術の医師の負担を軽減するために高精度3D映像を見ながら座って手術でき、また手ブレ防止など人間のブレのある動きを抑えたきめ細やかな動きをサポートする。
da Vinciは洗練された素晴らしいロボットシステムではあるものの大きく扱いづらく高価で、触覚の感知・フィードバックがないという弱点があり、その弱点をついた競合他社も増えてきている。
インテュイティブ・サージカルの詳しいビジネスモデルは以下で解説。
感触を伝えられる低侵襲手術ロボットシステム「Senhance」
トランスエンテリックス(TransEnterix)の低侵襲手術ロボットシステム「Senhance Surgical Robotic System」はダ・ヴィンチそっくり(?)の見た目で競合し価格圧力となりそう。
da Vinciのインテュイティヴ・サージカル(NASDAQ:ISRG)https://t.co/ZyDUjWLB87
と競合する手術支援ロボットSenhance(ヘンハンス)の製造元のトランスエンテリックス(TRXC)がFDAから適応拡大の承認を取得。手術支援ロボットの競争が激しくなって今より手術コストが安価になるといいですな。 pic.twitter.com/8BuofZlJW3
— 気になる企業調べる🐘 (@kininaruzou) June 10, 2018
Senhance(センハンス)はダ・ヴィンチと同じくマニピュレーター型(医師の手の動きと同じ動きをする)だが、触感(手術器具の先端で患部に触れたときのさわったという感覚)があるのがダ・ヴィンチとの違い。
また、ダ・ヴィンチは覗き込む必要があるが、メガネ型デバイスによって姿勢の固定負担がない分、術者(医者)の背中の負担は優しそうだ。
このSenhanceはもともとはイタリアのヘルスケア企業SOFAR S.p.Aの低侵襲ロボット手術支援ロボット「TELELAP ALF-X」で、2015年にTransEnterixが同社の外科ロボット部門を買収し、権利を取得した。
GoogleとJ&Jによる手術ロボットだけでなくデジタル手術プラットフォームまで計画するVerb Surgical
最もダヴィンチの脅威である可能性が高いのは、Googleの親会社アルファベットの医療子会社ヴェリリー・ライフ・サイエンシズ(Verily)とジョンソン・エンド・ジョンソンの医療機器子会社エチコンの合弁会社であるVerb Surgical(ヴァーブ・サージカル)で、ダ・ヴィンチよりもかなり安価で小型な、クラウドベースで機械学習によるサポートを提供する手術ロボットを開発中(まだプロトタイプで製品化は2020年を目指す)。
Verb CEOのScott Huennekens氏は「世界人口の約80億人のうち50億人が手術されることがない」ことを問題視しており、Verbは単なる手術ロボットの開発を超えて、デジタル手術のためのプラットフォームを構築し、世界で高度な手術へのアクセスを容易化することが目標だという。
川崎重工業×シスメックスの手術支援ロボット
検体検査装置大手で医療業界にネットワークのあるシスメックスと産業ロボットのリーディングカンパニーの川崎重工業が組んだ医療用ロボットの合弁会社「メディカロイド」が2013年に設立されダヴィンチの対抗馬を開発中。
まだ製品を見ていないのでなんともいえないが、ダヴィンチよりも小型で産業ロボットに強い(日本で初めて産業用ロボットの事業を開始した)川崎重工業ならではの関節部分の細さによってダ・ヴィンチの弱点であったアーム同士がぶつからないような構造が意識されているようだ。
2019年の製品化を急ぐ。この合弁会社の強みは医療業界の強固なネットワークを持つ企業と産業ロボットの技術力ある企業によるサポート・サービス拠点が世界中にある点。
空気圧制御によるダ・ヴィンチの半額程度の価格の手術支援ロボット
東京工業大学発ベンチャーのリバーフィールドはダ・ヴィンチに対抗し、空気圧駆動によって触感を実現した手術支援ロボットを2020年の販売を目標に開発している。
すでに空気圧駆動の製品としては東京医科歯科大学と共同研究した内視鏡カメラと連動した空気圧駆動型の内視鏡操作システムEMARO(エマロ)を販売しており、リバーフィールドに出資している東レエンジニアリングが受託製造している。
もともとリバーフィールドは最初からダ・ヴィンチに対抗するつもりはなく、触感(フィードバック)テクノロジー導入案件で接触したものの断られたため、自前で実現するために創業。
プロトタイプの見た目もダ・ヴィンチに近いマニピュレータ型で、ダ・ヴィンチにない触感とダ・ヴィンチの半額程度の販売価格でどこまで市場に食い込めるか(日本の医療機器市場は世界的にも大きい点から国産手術支援ロボットは待望されているはず)。
また、プロトタイプはTransEnterixのSenhanceと同様3Dビジョンの見える特殊メガネを着装。
価格はダヴィンチの10分の1の製品を目指す「A-Traction」
A-Traction(エー・トラクション)は国立研究開発法人国立がん研究センター発ベンチャー企業。
内視鏡下手術(切開ではなく身体に開けた小さな穴から腹腔鏡・器具を挿入した手術)など国内有数の症例数で知られる国立がん研究センター東病院(と同病院の新棟であるNEXT:次世代外科・内視鏡治療開発センター)と連携し腹腔鏡手術支援ロボットを開発し、販売開始は2020年を目標。
ロボットマイクロサージェリーのMicroSure
オランダのMicroSureはマイクロサージェリー(手術用顕微鏡を用いた手術)分野のロボットを手がける。
多関節手術支援ロボット SPORT Surgical Robot
カナダのTitan Medical(タイタンメディカル)の多関節手術支援ロボットのシミュレーショントレーニングの様子。
超小型のVirtual Incision
Virtual Incisionは米国のネブラスカ大学発企業。結腸切除術などの手術において安価で超小型で特別な手術室を必要としない手術支援ロボット。
網膜硝子体手術支援ロボットのPreceyes
オランダのPreceyesは眼科医の高精度の手術を支援するロボットソリューションを提供。
脊髄手術のためのロボット・ガイダンスシステム MazorX
イスラエルのMazor Robotics(メイザー・ロボティクス)が2000年代初頭に開発したロボット脊椎手術誘導システムSpineAssistをベースに2011年から脊椎だけでなく脳の手術にも使用できるルネッサンス(Renaissance Guidance System)を開発、さらに2016年に改良した脊椎手術プラットフォームをMazor Xを開発。
メイザーのIR資料を確認するとMazor Xの伸びが著しいことが分かった。
また、メイザーロボティクスには医療機器大手メーカーのMedtronic(メドトロニック)が投資し製品の共同販促・開発・販売で戦略的提携と強力な後ろだてを得ている。
人工関節置換手術支援ロボットROBODOC(ロボドック)
開発会社が買収で転々としてややこしい、今は韓国ヤクルトにCurexo Technologyが買収されて傘下になったんでしたっけ?
もともとIBMの研究員が開発したシステムがベースで、現在IBMとロボドックは包括的な特許のクロスライセンス契約を結んでいる。
人工関節置換・再建手術ロボット「MAKO」
人工膝関節、人工股関節、人工肩関節などの医療機器メーカーであるストライカーが2013年に買収した人工股関節・膝関節の置換・再建手術ロボット「MAKO」
整形外科手術ロボットの「ROSA」
ジンマー・バイオメット(Zimmer Biomet)が2016年に買収した仏メドテックが手がける整形外科手術ロボットの「ROSA」
ロボット制御のデジタル顕微鏡Modus V
カナダのSynaptive Medicalが開発。
ロボット支援PCIのCorPath
Corindus Vascular Roboticsのロボット支援PCI(経皮的冠動脈インターベンション)「CorPath」
医師の腕の疲労を軽減するiArmS(アイアームス)
自動車部品メーカーのデンソーが自動車部品で培ってきた技術を応用した手術支援ロボット「iArmS」(アイアームス)
センサー内蔵のロボットアームが医師の腕の動きに追従しながら支えたり固定したりと、高度かつ長時間の手術による医師の疲労や手の震えを軽減・サポートする。
KUKAの医療用協働ロボットLBR Med
ドイツのロボットメーカーのKUKA(クーカ)のメディカルロボティクス部門による医療用協働ロボット「LBR Med」は力・速度・位置をモニタリング・コントロールし繊細な力加減が可能で、超音波検査・内視鏡検査・生体組織検査の際のアシスタントとしての利用が期待される。
手術支援ロボットの今後
da Vinciが独占状態で高価である危機感(医療コストや国産育成等)がある雰囲気ではあるが、すでに多くの企業が打倒ダ・ヴィンチを掲げ開発をすすめている。
また、腹腔鏡手術支援ロボット以外でも光る医療ロボットベンチャーは多く、今後もロボット支援手術の進展はウォッチしがいがありそうだ。
Google×JNJの期待の手術支援ロボット&デジタル手術プラットフォームがどんなものなのか等、注目企業の製品がヴェールをぬぐのは2019-2020年頃なので判明し次第追記したい。