レッドハット【RHT】オープンソースによるベンダーロックインからの解放

RedHat

Red Hat, Inc.【NYSE:RHT】
レッドハットは世界的なオープンソースソフトウェア&サービス、エンタープライズITソリューションプロバイダー。

オープンソースとは
ソースコード(ソフトウェアの設計図のようなもの)の複製・修正・再配布などが自由に認められていること。

オープンソースは以前のように単に低コスト化を目的とするものだけではなく、ソフトウェアをオープンソースにすることで先進的な取り組みで多くのエンジニアの技術を活用しイノベーションを加速するためにも導入されている。

Red Hatは設立以来、オープンソースであるLinuxと深く関わり、Linuxディストリビューション(頒布形態)のサブスクリプションモデル(保守サポート等)を事業の中核として成長。

市場のLinuxに関する支出の70%以上をレッドハットが占めるほどLinuxにおけるレッドハットの存在感は大きい。

レッドハットのLinuxディストリビューションであるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)が同社の稼ぎ頭でありコア事業ではあるが、Linuxの突出した売上依存度を低減するため、Linux上で稼働するさまざまなミドルウェア製品を充実させシナジーを発揮できる収益源の多様化に取り組んでいる。

調査会社ガートナーによるレッドハットの評価は以下の通り。

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Source: Gartner: Red Hat’s 2017 Vendor Rating report.(優良な分析)

レッドハットのビジョンは一貫している

Linuxをベースにビジネスを多様化しているレッドハットだが、ビジョンは現在も一貫している。

そのビジョンは、ベンダーロックインの壁を打破しオープンな環境を構築すること。

ベンダーロックインとは
必要以上に乗り換えが困難(スイッチングコスト)だったり、他社の製品のつまみ食い(ベスト・オブ・ブリード)ができない状態。

設立当初はアプリケーションの互換性のない各社それぞれの商用UNIXなどによるベンダーロックインに対抗するサブスクリプションモデル(RHEL)。

そして現在は、プライベートクラウドやパブリックプラウドなどのクラウド群雄割拠時代でも特定のクラウド環境にロックインされないようなオープンな環境の提供を目指している。

もちろんレッドハットが”正義の味方”と言いたいわけではない、これがレッドハットのビジネスであり見せたいストーリーであるということ。

オープンソースコミュニティと深く関わるレッドハット

レッドハットは、Linuxカーネル、JBossコミュニティ(アプリケーションの高度化を実現するオープンソースミドルウエア最大手JBossを2006年に買収)など多くのオープンソースプロジェクトに取り組んでいるコントリビューター企業。

オープンソースコミュニティでは自由にコードを確認し、質問・改善策を提示できる。

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レッドハット自身もオープンソースコミュニティに参加し、コードを作成するなど深く関わっている。

パートナー企業とのエコシステム

レッドハット製品はオープンソーススタンダードに準拠しているため相互運用性を備えており、レッドハット製品間の連携だけでなく、レッドハットのパートナー企業はもちろん競合企業の製品ですら連携もスムーズ。

なおレッドハットは、数千ものソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダー、クラウドプロバイダー、サービスプロバイダーと協力関係のもと技術認定エコシステムを形成している。

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中国のパブリッククラウドの半分を支配するアリババとも2017年10月からレッドハットは連携している。

中国のクラウド事業は外資は規制でなかなか難しい舵取りが必要で伸ばすことができていないため、AWSやAzureなどの世界2トップのクラウドと中国のクラウドまで提携でリーチしたレッドハットは良いポジションを築いている。

レッドハットの顧客

フォーチュン500のすべての航空会社・通信事業者・商業銀行・医療関連企業、そしてすべての米国政府機関がレッドハットを採用している。

このようにレッドハットの主な顧客層は金融機関や通信事業者や政府機関、そしてメディア・テクノロジーも多かったのだが

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近年レッドハットが注力し伸びている3つの製品であるコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」、クラウド管理「Red Hat OpenStack Platform」、構成自動化「Red Hat Ansible」で、顧客層も徐々に多様化しつつある。

OpenStackやOpenShiftなどレッドハットの新しい成長ドライバーが伸びる

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2017年時点で7:3の売上比率でRHEL事業への依存がまだ大きいが、2020年には5:5の比率までRHELの事業以外のビジネスを成長させる目標を掲げている。

その成長の中心がOpenShift、OpenStack、Ansibleとなる。

「OpenStack」はオープンソースのIaaS環境構築用(クラウド環境構築用)のソフトウェアで、オープンソースコミュニティが活発で技術者は情報が入手しやすい。

「Ansible」はシンプルなIT自動化テクノロジーで従来のレッドハットの顧客層ではなかった企業でも導入が進んでいる。

そして2010年にレッドハットが買収した米Makara社のPaaSサービスが元となっている「OpenShift」はレッドハットのビジョンにおける重要なパズルのピースだ。

コンテナ化とOpenShiftで見えるレッドハットのビジョン

クラウドネイティブ(クラウド上での利用前提で設計)コンピューティングで利用するオープンソースソフトウェア(OSS)スタックの前提条件の1つである「コンテナ化」

コンテナによってハイブリッドクラウド間でのアプリケーションの移植が可能で、次世代アプリ基盤として注目されている。

ハイブリッドクラウドとは
AWSなどのパブリッククラウドやプライベートクラウドなど各社の提供するクラウドサービスやオンプレミス(自社で保有・運用)も含め自由に組み合わせ、使い分ける運用形態。

そのコンテナの運用ツールとしてGoogleの社内プロジェクトでOSSとして開発された「コンテナを使用するクラウドネイティブコンピューティングの共通運用基盤」がKubernetesで、レッドハットは2015年とかなり初期の段階からKubernetesを採用し、Kubernetesベースの製品を最初に提供したベンダー。

そして、そのKubernetesやDockerをベースとしたコンテナアプリケーションプラットフォームが「Red Hat OpenShift Container Platform」。

またOpenShiftユーザーは、最大シェアのプライベートクラウドであるAmazon Web Services(AWS)の顧客でなくてもAWSが提供している機械学習やビッグデータ解析などの機能を、OpenShift Container Platformから直接アクセスし活用できるなど囲い込まれていたクラウドがオープンになってきているのが興味深い。

クラウド覇権争いの中で、特定のクラウド環境にロックインされないためにも、一貫性のあるアプリケーション、運用を実現できる環境を作る必要があり、そういった中でコンテナというLinuxアプリケーションにオープンで移行性のある運用基盤が伸びていることは方向性としては良い。

レッドハットのジム・ホワイトハーストCEO「クラウドサービスプロバイダー各社ともパートナーシップを結んでいる関係にある。ただし、そうしたプロバイダーで自社用のLinuxを手掛けてロックインするような形になると、そのLinuxとは必然的に競合関係になる。例えば、Amazon Web Services(AWS)が提供しているLinuxはAWSでしか使えないので、そういう関係になるだろう」

Source: ZDNet Japan

ハイブリッドクラウドの構成環境をLinuxで全て共通化できれば、オープンな環境を実現しパブリッククラウドのロックインを防止でき、これはレッドハットのビジョンそのものだ。

レッドハットとオープン・ハイブリッド・クラウド

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レッドハットはハイブリッドクラウドの構成環境をLinuxで全て共通化するオープン・ハイブリッド・クラウドのビジョンに基づいた買収もほぼ必要なピースを揃えたという。

レッドハットの業績と決算

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インフラ(RHEL)関連のサブスクリプション収入比率が高く、二桁台で伸びている中核事業だ。

さらに伸びているApplication Development and Emerging Technology(アプリケーション開発および新興テクノロジー製品)事業。

これはOpenShift、OpenStack、Ansibleなどのこと。

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非常に伸びている。

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レッドハットの業績推移グラフ

*2018年度は2017年12月12日時点のTTM

金融危機にも負けない連続的な収益増で、高いマージン。

10年間で発行済株式の20%ほどの自社株買いを行って株主還元している。

<RedHatの株価>

追記: 2018/10/299
IBMがレッドハットを約340億ドルで買収すると発表。

レッドハット株価でいうと1株あたり$190.00での買収となる。

中立的立場でベンダーロックインからの解放をウリ文句としていたレッドハットとしてはIBM傘下となることで魅力が薄れるような気もするが…

RHT-Oppotunity

成長ポテンシャルはまだまだありそうだ。

OpenStackやOpenShiftなどの新興テクノロジー製品群は、従来のレッドハットのコア事業であったLinuxに比べ、利益率が高い。

例. RHELライセンス標準価格が年間1000ドルであるのに対し、OpenShift(デュアルコア)は1万5000ドル

RedHat-1993

レッドハットの決算
レッドハットの最新の決算や業績データは以下の特集記事でまとめている。

Red Hat, Inc(NYSE:RHT)の最新の決算およびビジネス状況を四半期ごとに定点観測し追記していく記事。 67四半期連続の増...

みんなの投資分析とコメント

  1. 匿名投資家 より:

    本日、RHTがIBMに買収されるというニュースがありました。
    これは、「ベンダーロックインの壁を打破しオープンな環境を構築する。」というビジョンが怪しくなるかもしれません。